中国だけではない?日本が世界で探し始めた「レアアースの新ルート」とは

2023年秋、日本政府は予算枠を大幅に拡大し、アフリカやオーストラリアへ次々と調査団を派遣し始めました。目的は「レアアース」。耳にしたことはあっても、なぜ今、これほど急いで世界中を飛び回るのでしょうか。スマートフォンやパソコン、電気自動車のモーターに欠かせないこの素材、実は日本が輸入するレアアースの約6割を中国に依存しています。しかし、国際情勢が変われば供給が途絶えるリスクは常にあります。だからこそ今、日本は「中国以外」のルートを本気で探し始めているのです。では、なぜ今なのか。そして、新たなルートは本当に見つかるのでしょうか。

突然動き出した日本政府の「脱中国依存」計画

日本がレアアースの調達先を多様化しようとする動きは、実は今に始まったことではありません。2010年、尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけに中国からのレアアース輸出が事実上停止したことがあります。この時、日本の製造業は大混乱に陥りました。ハイブリッド車の生産が滞り、精密機器メーカーは代替素材を必死で探しました。あの教訓から10年以上が経ち、再び日本は動き出しています。

しかし今回の動きには、以前とは異なる緊迫感があります。2023年7月、中国政府はレアアースの輸出規制を強化すると発表しました。これは単なる貿易政策ではなく、半導体や電気自動車をめぐる米中対立の中で、レアアースが「戦略物資」として位置づけられたことを意味します。日本企業にとって、これは他人事ではありません。電気自動車のモーターに使われるネオジム磁石、風力発電のタービン、スマートフォンの振動モーター。これらすべてにレアアースが使われており、その多くを中国からの輸入に頼っているのです。

日本政府が2023年度補正予算で、レアアース調達先の多様化に数百億円規模の予算を計上したのは、こうした背景があります。経済産業省は「サプライチェーンの強靱化」という言葉を使いますが、その本質は「中国以外から確実に調達できるルートを確保する」ことにほかなりません。

なぜ中国が世界のレアアースを握っているのか

そもそも、なぜ中国がこれほどまでにレアアース市場を支配しているのでしょうか。レアアースという名前から希少な鉱物だと思われがちですが、実は地球上に広く分布しています。問題は「掘る」ことではなく、「精錬する」ことにあります。

レアアースは17種類の元素の総称で、鉱石から目的の元素を取り出すには複雑な化学処理が必要です。この精錬工程では大量の酸やアルカリを使い、有害な廃液が出ます。中国は1980年代から環境規制を緩くし、低コストで精錬工場を拡大してきました。その結果、価格競争で他国の企業が次々と撤退し、世界のレアアース精錬能力の約8割を中国が握るようになったのです。

この数字が意味するのは、たとえアフリカやオーストラリアでレアアース鉱石を掘り出しても、それを精錬する工場が中国にしかなければ、結局は中国を経由せざるを得ないということです。鉱山を見つけることと、実際に使える素材を手に入れることは、まったく別の話なのです。

日本が注目する「新ルート」の現実

では、日本が探している新ルートとは具体的にどこなのでしょうか。現在、最も期待されているのがオーストラリアとベトナム、そしてアフリカの一部地域です。

オーストラリアは世界有数のレアアース鉱山を持ち、ライナス社という企業が西オーストラリアのマウント・ウェルド鉱山で採掘を行っています。この鉱山で産出されるレアアースは、一度マレーシアの精錬工場に運ばれます。日本政府と企業は、この精錬工程への出資や技術協力を進め、安定供給ルートを確保しようとしています。2023年には日本の商社がライナス社と長期購入契約を結び、年間数千トン規模のレアアースを確保する見通しが立ちました。

ベトナムも有望な供給源として浮上しています。ベトナム北部にはレアアースを含む鉱床が広がっており、日本企業が探査や開発に参加しています。地理的に近く、政治的にも友好関係にあるベトナムは、中国への依存を減らす上で理想的なパートナーに見えます。

ところが、ここには大きな壁があります。精錬工場の建設には莫大な資金と時間がかかり、さらに環境対策が必要です。オーストラリアやベトナムで採掘したレアアースを、中国以外の国で精錬できる体制を整えるには、少なくとも5年から10年はかかると言われています。つまり、鉱山を見つけただけでは問題は解決しないのです。

実は日本の海にも眠っている「もう一つの可能性」

ここで意外な事実があります。日本の排他的経済水域内、特に南鳥島周辺の海底には、大量のレアアースを含む泥が堆積していることが確認されています。東京大学の研究チームが2018年に発表した調査では、この海底泥には陸上鉱山の数十倍の濃度でレアアースが含まれており、その埋蔵量は日本の消費量の数百年分に相当するとされています。

これだけ聞けば、日本は資源大国になれそうに思えます。しかし現実はそう単純ではありません。南鳥島周辺の海底は水深5000メートルを超える場所にあり、そこから泥を引き上げるだけでも技術的に困難です。さらに、海底から採取した泥を精錬する技術も確立されていません。コストを試算すると、現在の市場価格では採算が取れないのが実情です。

それでも日本政府は、この「海底レアアース」の開発を諦めていません。2023年には海洋研究開発機構と民間企業が共同で、深海からの採泥試験を実施しました。目的は技術を確立し、将来的にコストを下げることです。今すぐ実用化できなくても、10年後、20年後を見据えた投資として進められています。

本当の問題は「精錬能力」をどう取り戻すか

新しい鉱山を見つけても、海底資源を開発しても、最終的に立ちはだかるのは「精錬」という壁です。日本にはかつて、レアアースを精錬する技術と工場がありました。しかし安価な中国産に押されて採算が合わなくなり、次々と閉鎖されました。今、その技術を持つ人材も高齢化し、ノウハウが失われつつあります。

この課題に対し、日本企業はいくつかの戦略を取っています。一つは、オーストラリアやベトナムでの精錬工場建設に日本企業が参加し、技術支援と引き換えに優先的に製品を購入する権利を得る方法です。もう一つは、日本国内に小規模でも精錬設備を再建し、緊急時に備える動きです。実際に、一部の企業は使用済み製品からレアアースを回収し、再利用する「都市鉱山」プロジェクトを進めています。

都市鉱山とは、廃棄されたスマートフォンやパソコン、家電製品からレアアースや貴金属を取り出し、再び原料として使う仕組みです。日本国内には、毎年大量の電子機器が廃棄されており、そこに含まれるレアアースの量は無視できません。ただし、リサイクルにもコストがかかり、現状では新たに採掘するよりも高くつく場合があります。それでも、供給途絶のリスクを考えれば、一定の備えとして意味があるのです。

私たちの生活にどう影響するのか

ここまで読んで、「レアアースの供給が不安定になると、具体的に何が困るのか」と思う方もいるでしょう。実はこの問題は、日常生活のあらゆる場面に関わっています。

まず電気自動車です。モーターに使われるネオジム磁石がなければ、高効率なモーターは作れません。レアアースの供給が滞れば、電気自動車の価格が上がり、普及が遅れる可能性があります。風力発電も同様です。大型風車の発電機には強力な磁石が必要で、そこにレアアースが使われています。再生可能エネルギーへの転換を進める上で、レアアースは欠かせない素材なのです。

スマートフォンやノートパソコンにも影響があります。画面のバックライトや振動モーター、スピーカーにレアアースが使われているため、供給不足になれば製品の価格が上がり、手に入りにくくなるかもしれません。医療機器も例外ではありません。MRI装置には強力な磁石が必要で、ここにもレアアースが使われています。

もし中国からのレアアース供給が完全に止まったらどうなるか。過去の事例を見ると、一時的に価格が数倍に跳ね上がり、代替素材を探す動きが加速しました。しかし代替できない用途も多く、結局は供給再開を待つしかありませんでした。この経験が、今の「脱中国依存」の動きを後押ししているのです。

他国はどう動いているのか

日本だけがレアアース問題に直面しているわけではありません。アメリカやヨーロッパ諸国も、同じように中国依存からの脱却を目指しています。

アメリカは国防上の理由からレアアース確保を最優先課題としています。軍事用のミサイル誘導システムや戦闘機の部品にもレアアースが使われており、中国に依存することは安全保障上のリスクと見なされています。そのためアメリカ政府は、国内のレアアース鉱山再開に補助金を出し、精錬工場の建設を支援しています。カリフォルニア州のマウンテンパス鉱山は、かつて世界最大のレアアース供給源でしたが、中国との価格競争に敗れて閉鎖されました。それが今、再び稼働に向けて動き出しています。

ヨーロッパ連合も「重要原材料法」を制定し、レアアースを含む戦略物資の域内調達を目指しています。特にドイツは自動車産業の競争力を保つため、レアアースの安定供給を重視しています。北欧やグリーンランドでの探査プロジェクトに投資し、将来的にヨーロッパ内で完結するサプライチェーンを構築しようとしています。

こうした動きは、世界中でレアアース争奪戦が始まっていることを意味します。鉱山開発や精錬工場建設には巨額の資金が必要で、各国が限られた資源を奪い合う構図が生まれつつあります。日本が新ルートを確保するには、他国との競争に勝たなければなりません。

それでも進まない理由

ここまで見てきたように、日本政府も企業も、レアアースの調達先多様化に本気で取り組んでいます。それなのに、なぜ現状はほとんど変わっていないのでしょうか。

最大の理由は、やはりコストです。中国は長年にわたって大規模に生産し、精錬技術を磨いてきました。その結果、圧倒的に安い価格でレアアースを供給できます。新たに鉱山を開発し、精錬工場を建設しても、中国産と価格競争になれば採算が合いません。企業は利益を追求する以上、高いコストを負担し続けることは難しいのです。

環境問題も大きな壁です。レアアースの精錬工程では有害な廃液が出るため、厳しい環境規制がある国では工場建設が進みません。住民の反対運動が起きることもあります。マレーシアでは、ライナス社の精錬工場に対する環境懸念から、操業停止を求める声が上がりました。結局、廃棄物処理の方法を見直すことで操業は続いていますが、こうした問題は他の国でも起こり得ます。

もう一つ見逃せないのは、時間の問題です。鉱山開発から精錬工場の稼働まで、少なくとも5年から10年はかかります。その間、企業は中国からの輸入に頼らざるを得ません。長期的な視点で投資を続けられるかどうかが、成否を分けます。

企業が取り組む「レアアース使用量削減」という現実的な選択

新ルート開拓と並行して、日本企業が力を入れているのが「そもそもレアアースを使わない技術」の開発です。どれだけ調達先を増やしても、供給リスクがゼロになることはありません。それならば、使用量を減らすか、まったく使わない代替技術を生み出す方が確実だという考え方です。

モーター分野では、ネオジム磁石を使わない「インダクションモーター」や「フェライト磁石モーター」の開発が進んでいます。テスラの電気自動車はすでにインダクションモーターを採用しており、レアアースフリーを実現しています。ただし、ネオジム磁石を使ったモーターに比べて効率がやや劣り、サイズも大きくなる傾向があります。自動車メーカーは航続距離や車内スペースとの兼ね合いで、どちらの技術を選ぶか判断しています。

日本の自動車部品メーカーも、ネオジムの使用量を半分以下に減らした「減磁石モーター」の開発に成功しています。完全にゼロにはできなくても、使用量を減らせば調達リスクは下がります。ある大手メーカーは2025年までに、主力モーターのレアアース使用量を30%削減する目標を掲げています。

リサイクル技術も実用段階に入りつつあります。使用済みのハードディスクやエアコンのコンプレッサーからネオジム磁石を取り出し、再び磁石として生まれ変わらせる技術が確立されました。従来は磁石を粉砕して化学処理で元素を取り出していましたが、新しい手法では磁石の形を保ったまま再生できるため、エネルギー消費が少なく済みます。2023年には年間数百トン規模のリサイクルが行われており、今後さらに拡大する見込みです。

見えてきた「レアアースの地政学」という新たな構図

レアアース問題は、もはや単なる資源確保の話ではなく、国際政治の駆け引きの舞台になっています。中国がレアアースを外交カードとして使う可能性は、過去の事例からも明らかです。2010年の尖閣問題だけでなく、2019年には米中貿易摩擦の中で、中国政府高官がレアアース輸出規制を示唆する発言をしました。この発言だけで市場価格が急騰し、各国が対応を迫られました。

アフリカでの資源開発にも、こうした地政学的な側面があります。中国はすでにアフリカ各国に巨額の投資を行い、鉱山開発の権益を押さえています。日本が後から参入しようとしても、すでに主要な鉱山は中国企業が権利を持っているケースが少なくありません。資源外交では先行者が圧倒的に有利であり、日本は出遅れた分を技術協力や人材育成支援で補おうとしています。

ベトナムが日本にとって重要なパートナーとなっている背景にも、こうした事情があります。ベトナムは中国と領土問題を抱えており、経済的にも中国一辺倒を避けたいという思惑があります。日本との協力を深めることで、外交的なバランスを取りたいベトナムと、中国依存を減らしたい日本の利害が一致しているのです。ただし、ベトナムは中国と陸続きであり、政治的に完全に独立した行動を取れるわけではありません。この微妙なバランスが、今後の協力関係にどう影響するかは不透明です。

価格変動リスクをどう読むか

レアアース市場のもう一つの特徴は、価格の乱高下です。2011年には一部のレアアースが1キロあたり数十万円まで高騰しましたが、その後急落し、数年で10分の1以下になりました。この価格変動は、需給バランスだけでなく、投機的な動きや政治的な思惑が絡んで起こります。

企業にとって、この価格変動は経営リスクそのものです。高値で長期契約を結んだ後に価格が暴落すれば損失を被り、逆に安値を見込んで在庫を減らしたところで価格が急騰すれば生産が止まります。そのため大手メーカーは、複数の供給元から少しずつ購入し、在庫も一定量を常に確保する戦略を取っています。これはコストがかかりますが、供給途絶リスクを避けるための保険と考えられています。

日本政府も国家備蓄制度を持っており、数か月分のレアアースを確保しています。しかし備蓄にも限界があり、長期的な供給途絶には対応できません。結局のところ、安定した調達ルートを複数確保することが、最も現実的なリスク管理なのです。

技術革新が変える未来のシナリオ

ここまで課題ばかりを見てきましたが、技術革新が状況を一変させる可能性もあります。深海採掘技術が飛躍的に進歩すれば、日本近海の海底レアアースが現実的な選択肢になるかもしれません。すでに石油や天然ガスの分野では、水深3000メートルを超える深海での採掘が実用化されています。同じ技術をレアアース採掘に応用できれば、コストは大幅に下がります。

精錬技術にも革新の兆しがあります。従来の化学処理に代わる、バイオ技術を使った精錬方法が研究されています。特定のバクテリアがレアアースを選択的に吸着する性質を利用し、環境負荷を減らしながら精錬するアイデアです。まだ実験室レベルですが、実用化されれば精錬工場建設のハードルが下がり、各国が自前で精錬できるようになるかもしれません。

さらに長期的には、レアアースそのものが不要になる可能性もあります。量子コンピュータや新しい材料科学の発展により、まったく異なる原理で動く機器が登場すれば、現在のレアアース需要は一変するでしょう。ただしこれは数十年先の話であり、当面は現実的な対策を積み重ねるしかありません。

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まとめ

日本が世界中でレアアースの新ルートを探し始めた理由は、中国への過度な依存がもたらすリスクにあります。国際情勢の変化や輸出規制によって供給が途絶えれば、電気自動車から医療機器まで、私たちの生活に欠かせない製品が作れなくなる可能性があるからです。オーストラリア、ベトナム、さらには日本の海底資源まで、選択肢は増えつつあります。しかし本当の課題は精錬能力をどう確保するかであり、コストや環境問題が立ちはだかります。今後は各国との競争が激しくなり、日本がどれだけ長期的な視点で投資を続けられるかが鍵となるでしょう。

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