第3のビールが消える?「本物のビール」と何が違うのか、10月から変わる意外な理由

スーパーのビール売り場で、いつも買っていた「第3のビール」の棚が妙に小さくなっていることに気づいた人は多いのではないでしょうか。よく見ると、隣の「本物のビール」の棚が拡大されています。2026年10月、ついに第3のビールが事実上消滅する可能性が高まっています。安いビールの代名詞だった商品が、なぜ姿を消そうとしているのでしょうか。理由は単純な「値上げ」ではありません。実は10月から始まる酒税改正によって、ビール類の税金構造が大きく変わり、第3のビールを作る意味そのものが失われつつあるのです。しかし話はそれだけでは終わりません。なぜ税金が変わるのか、なぜメーカーは第3のビールを諦めるのか、そしてなぜ今、多くのメーカーが「ビール」にシフトしているのか。その背景には、私たちが知らない意外な事情がありました。

第3のビールが生まれた本当の理由

そもそも「第3のビール」とは何だったのでしょうか。ビール売り場には「ビール」「発泡酒」「第3のビール」と3種類が並んでいますが、多くの人はその違いを正確には知りません。

実はこの3つ、味の違いではなく「税金の違い」で分類されています。ビールは麦芽比率が50%以上のものと法律で定められており、350ml缶あたり77円の酒税がかかっていました。一方、発泡酒は麦芽比率が50%未満のもので、税金は47円程度。そして第3のビールは、麦芽をほとんど使わず、大豆やエンドウ豆などの「その他の原料」を発酵させたもので、税金はわずか28円でした。

つまり、第3のビールは「ビールに似た別の酒」を作ることで、税金を安くする工夫だったのです。メーカーが知恵を絞って開発したのは、消費者に安い商品を届けるため。ビールと発泡酒の税率差を利用して生まれたのが発泡酒で、それにさらに課税されると、今度は別の原料を使った第3のビールが誕生しました。1994年に発泡酒が登場し、2003年には第3のビールが市場に出ています。

この「いたちごっこ」は、メーカーと税制の攻防でもありました。税制が変わるたびに、メーカーは新しい製法を開発し、消費者は安い商品を手に入れてきたのです。

2026年10月に何が起きるのか

ところが、この構図が2026年10月に崩れます。政府が進めてきた「酒税の一本化」が最終段階を迎えるからです。

2017年から段階的に進められてきた酒税改正は、ビール類の税率を統一することを目指しています。2026年10月には、ビール、発泡酒、第3のビールすべての税率が350ml缶あたり54.25円に揃います。ビールは減税、第3のビールは大幅な増税となり、その差は約26円。1本あたり26円の差は、6缶パックなら156円、1ケース(24本)なら624円にもなります。

この変更で何が起きるのか。第3のビールの価格優位性が失われるのです。これまで第3のビールは1缶130円前後、ビールは220円前後で販売されていました。約90円の価格差が、消費者にとって大きな選択理由になっていたわけです。

しかし税率が統一されれば、メーカーは第3のビールをわざわざ作る理由がなくなります。製造コストは第3のビールもビールもほぼ変わらないか、むしろビールの方が大量生産によるコスト削減が進んでいます。税金が同じなら、「本物のビール」を作った方が、ブランド価値も高く、消費者の支持も得やすいのです。

メーカーが続々と「ビール」へ回帰する動き

実際、大手ビールメーカーはすでに大きく舵を切っています。サントリーは2024年、主力商品だった第3のビール「金麦」のリニューアルを発表しましたが、その方向性は「よりビールに近い味わい」でした。キリンも「本麒麟」を発泡酒から「リキュール(第3のビール)」に変更した後、さらにビールへの切り替えを検討していると報じられています。

アサヒビールは2023年春、「アサヒ スーパードライ」の増産体制を発表しました。一方で第3のビールの生産ラインは縮小傾向にあります。サッポロビールも同様で、「黒ラベル」などのビールブランドに経営資源を集中させています。

この動きは2026年を見据えたものだけではありません。もう一つ見逃せない背景があります。それは「若者のビール離れ」です。20代、30代の消費者調査では、「安いから第3のビール」ではなく、「おいしいならビール」という選択をする人が増えています。節約志向は変わらないものの、「本物志向」も同時に高まっているのです。

さらに、コロナ禍を経て「家飲み」が定着したことも影響しています。居酒屋で飲めば生ビール1杯500円以上ですが、自宅なら缶ビール1本200円程度。外食と比較すれば十分安いと感じる消費者が増え、「だったら本物のビールを」という心理が働いています。

なぜ今、税制を統一するのか

そもそもなぜ政府は、ビール類の税率を統一しようとしているのでしょうか。財務省の説明では「税制の簡素化」と「公平性の確保」が理由とされています。

現在の税制は複雑すぎました。ビール、発泡酒、第3のビールの定義を巡って、メーカーと国税庁が何度も議論を重ねてきた歴史があります。新商品が出るたびに「これはどの分類か」を判定する必要があり、行政コストもかかっていました。

また、同じような味わいの商品なのに、製法の違いだけで税額が大きく異なるのは不公平だという指摘もありました。ビールメーカーは「麦芽比率を下げれば税金が安くなる」という状況で、本来の商品開発ではなく「節税のための開発」に力を注がざるを得なかったのです。

国際的に見ても、日本のビール税制は特殊でした。多くの国ではアルコール度数に応じた課税が基本で、製法による区分けは少数派です。TPPなど国際的な貿易ルールの中で、「製法による差別的課税」は問題視される可能性もありました。

ただし、ここには別の思惑も透けて見えます。酒税収入の確保です。ビール類全体の消費量は減少傾向にありますが、税率統一により第3のビールの税額が上がれば、国の税収は増加します。財務省の試算では、統一後の税収は年間で数百億円増えると見込まれています。

消費者の財布にはどう響くのか

では、私たちの家計にはどんな影響があるのでしょうか。単純計算すると、第3のビールは値上がりし、ビールは値下がりします。

しかし現実はそう単純ではありません。メーカー各社の動きを見ると、ビールの値下げは限定的になる可能性が高いのです。なぜなら、原材料費や物流費が高騰しているからです。麦芽の国際価格は過去5年で約1.5倍に上昇し、アルミ缶の価格も上がっています。エネルギーコストの増加も製造コストを押し上げています。

つまり、減税分をそのまま価格に反映させる余裕がメーカーにはないのです。実際、2023年10月の第一段階の税制改正では、ビールの税額は下がったものの、店頭価格はほとんど変わりませんでした。一方で第3のビールは確実に値上がりしました。

この傾向は2026年も続くでしょう。第3のビールが1缶150円から170円程度になり、ビールは220円のまま据え置かれる。結果として、価格差は縮まり、「だったらビールを買おう」という消費者が増えることになります。

ここで重要なのは、「安い選択肢」が減るということです。毎日晩酌をする人にとって、月に30本飲めば600円の差は大きい。年間では7,200円です。節約志向の消費者にとって、第3のビールの実質的な消滅は痛手となります。

一方で、「質を重視する消費者」にとっては朗報かもしれません。同じ値段なら本物のビールが選べるようになり、メーカーもビールの品質向上に力を入れるようになります。実際、各社は「本物のビールを、もっと手頃に」というメッセージを強めています。

それでも残る可能性はあるのか

では、第3のビールは本当に完全に消えてしまうのでしょうか。メーカーの中には「最後まで残す」と明言しているところもあります。

サントリーの「金麦」やアサヒの「クリアアサヒ」など、長年親しまれてきたブランドには根強いファンがいます。「この味が好き」という消費者の声は無視できません。税率が同じになっても、ブランドロイヤルティを持つ消費者向けに、一部商品は残る可能性があります。

ただし、ラインナップは大幅に縮小されるでしょう。現在、各社が展開している第3のビールは10種類以上ありますが、2026年以降は主力1〜2商品に絞られると見られています。選択肢が減ることは避けられません。

また、スーパーやコンビニの売り場面積も変わります。第3のビールの棚が縮小され、ビールの棚が拡大する。プライベートブランド(PB)商品も、第3のビールから撤退し、低価格ビールへシフトする動きが出ています。イオンの「トップバリュ」やセブン&アイの「セブンプレミアム」でも、すでにその傾向が見られます。

興味深いのは、輸入ビールの動向です。税率統一により、国産ビールと輸入ビールの価格差も縮まる可能性があります。これまで「高い」と思われていた海外ブランドが、相対的に手頃に感じられるようになるかもしれません。ビール市場全体の競争構造が変わる可能性があるのです。

10月以降、私たちはどう選ぶべきか

2026年10月以降、ビール売り場の風景は一変するでしょう。第3のビールの棚は縮小または消滅し、代わりに「新ジャンル」とも呼べる商品が登場するかもしれません。

メーカーが注力しているのは「低価格ビール」です。税率は同じでも、製造コストを下げ、マーケティング費用を抑えることで、できるだけ安くビールを提供しようという試みです。大手各社は2024年から2025年にかけて、このカテゴリーの新商品を相次いで投入しています。

例えば、パッケージを簡素化したり、広告宣伝を抑えたりすることで、1缶180円程度の「普及価格帯ビール」を実現する動きがあります。プレミアムビールが250円以上、通常のビールが220円程度とすれば、その中間に位置する商品です。

消費者としては、何を基準に選べばよいのでしょうか。価格だけで選ぶ時代は終わりつつあります。代わりに重視すべきは「自分の好みの味」と「飲むシーン」です。

毎日の晩酌用なら普及価格帯のビール、週末のリラックスタイムにはプレミアムビール、という使い分けをする人が増えるでしょう。第3のビールが担っていた「日常の安い選択肢」の役割を、低価格ビールが引き継ぐ形です。

また、ノンアルコールビールや微アルコール飲料への注目も高まっています。健康志向の高まりとともに、「毎日はアルコールを控える」という選択をする人も増えており、ビール業界全体が多様化しています。

まとめ

第3のビールが消える理由は、2026年10月の酒税統一にあります。税率が揃えば、わざわざ第3のビールを作る意味がなくなり、メーカーは「本物のビール」へ回帰します。この変化は税制の簡素化という目的だけでなく、国の税収確保や国際的な整合性も背景にあります。消費者にとっては「安い選択肢」が減る一方、本物のビールが選びやすくなるという側面も。今後は価格帯別のビール商品が増え、自分の好みや用途に応じた選択が求められる時代になります。10月以降のビール売り場の変化に、ぜひ注目してみてください。

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